本のある生活~良書との出会い~: 「書評」ななつ星への道/唐池恒二

2024年12月22日日曜日

「書評」ななつ星への道/唐池恒二

ななつ星への道




[著書]ななつ星への道

[著者]唐池恒二

[発行]PHP研究所(2024年11月15日)

九州新幹線開通(博多〜鹿児島)を前に多忙を極める社内をよそに、次の”夢”に向けて新たに動き出す唐池社長だが、車内外を含め困難の連続であった。世界一の列車「ななつ星」の誕生秘話を様々な視点で見ることができる。

「ななつ星」は九州で走る豪華寝台列車である。九州には”ゆふいんの森”などもあるが、通常の特急列車として乗車で着るものもある中、当該列車は価格も数百万円だったり、チケット購入も専用サイトのみなど、乗車にはハードルが高い列車である。それだけ特別なだけあって、列車の仕様はもとより、料理・制服、クルーの接客やそれに感化された沿線の住民にいたるまで、大きな渦となって感動を与えている。

こうしたプロジェクトでは成功までの苦労話や逸話はよくあるが、ななつ星では関わる人の思いが桁違いに大きいと感じる。例えば、ななつ星に乗車した方だけでなく、列車が通過したあとの住民すら感動で涙する。巨大インフラ企業とはいえ民間企業の仕事に対してそこまでの感動を与えることは、ブランディング効果の賜物だろう。

ななつ星は結果として世界一の豪華列車となるが、本書では初めはそのような目標はなかったようである。”世界一になる”と言葉にしたことで士気が上がり、それに相応しいものを皆が作り上げようとする気持ちが必然的に結果につながったと思う。それを思わせるエピソードとしてななつ星で寿司を提供した「やま中」の大将が、ミシュランの星を逃した時に言った言葉が印象的である。「うちは、二つ星も三つ星も要りません。”ななつ星”ですから」

ななつ星は鉄道の枠を超えて、航空会社、有名シェフ、ソムリエ、豪華客船など様々なジャンルのエキスパートで構成したクルーで運営されている。こうした業種の違いは時にトラブルにもなりそうだが、唐池社長を中心としてななつ星の想いやメッセージを共有したことが成功の秘訣だろう。本書の執筆段階でななつ星は運行開始より10年以上経過しているが、今もなお色褪せず人気の列車となっている。今後の新しい取り組みや進化を楽しみに、いつか乗車して見たいと感じさせる一冊であった。

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