本のある生活~良書との出会い~: 「書評」別れる力(大人の流儀3)/伊集院静

2024年4月21日日曜日

「書評」別れる力(大人の流儀3)/伊集院静

別れる力



[著書]別れる力(大人の流儀3)

[著者]伊集院静

[発行]講談社(2012年12月10日)

「別れることは、切なく苦しいことだ。親しい人を失った時、もう歩き出せないほどの悲哀の中にいても、人はいつか再び歩き出すのである。」この作品は2011年に起こった東日本大震災の翌年に出版されている。作者の経験した出会いと別れに照らしながら、そこに込められたメッセージを感じて欲しい。

一口に”別れ”といっても卒業・就職・引越しなど、さまざまなシーンがある。その中でも人の死は最も悲しい別れである。作者も16歳で弟を亡くし、35歳で妻を亡くしている。自暴自棄になり酒に溺れることもあったが、死があるからこそ、それまで生きてきた証があると振り返っている。私も36歳の時に2つ上の姉を癌で亡くしている。姉とは仲が良いでもなく悪いわけでもなく一定の距離感があった。振り返れば姉弟で話すのが何となく恥ずかしく、私が一方的に壁を作っていたのだと思う。病気がわかった時も(既にステージ4だったが)、”治るのではないか”と根拠のない理由を言い聞かせ積極的には会っていなかった。亡くなった時はなぜもっと話をしなかったのかと酷く後悔したことを覚えている。作者の「もう歩き出せないほどの悲哀の中にいても、人はいつか再び歩き出すのである」という言葉に触れ、少しだけ救われたように思う。

本書では”別れ”にスポットを当てているのではない。人生観や(特に男性の)生き方、考え方が書かれている。作者は1950年生まれであるから、まさに”昭和の男”である。人生観や価値観は人それぞれ異なるし、考え方も時代と共に変化するものであるから、現代に生きる人にとっては賛同できない部分もあると思う。それは作者が親しい者の死や数々の別れを経験したからこそのメッセージであり、根底にあるのは”人と人とのつながりを大切にしなさい”ということだと私は理解している。

別れをテーマにした作品であるが、作者の人生をベースにユーモアを交えながら時に厳しく時に優しく、人生へのメッセージが書かれており、大変面白く読める作品である。年配者は共感でき若年者はこれからの教訓として幅広い年代に読んでもらいたい作品である。(女性に共感されるかは本人次第としておこう)

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