本のある生活~良書との出会い~: 「書評」小暮荘物語/三浦しをん

2024年4月6日土曜日

「書評」小暮荘物語/三浦しをん

小暮荘物語


[著書]小暮荘物語

[著者]三浦しをん

[発行]祥伝社(2014年10月20日)

小田急線沿いにある全6室のオンボロアパート小暮荘。一見すると住むには抵抗感さえある。そこは様々な悩みを抱えた住人が惹かれ合うように集まっていた。小暮荘を中心に他人同士にも関わらず、どこかで繋がっている人間模様を描いた作品である。

住宅街に建つ古びた木造アパート「小暮荘」を舞台に、住人同士の不思議な関係や人間模様が描かれている。とても若い人が好みそうにないアパートであるが、学生時代から住み続ける花屋の店員「繭」、派手な男性関係を持つ女子大学生「光子」、それを除くサラリーマン「神崎」、そして性に悩む大家の老人「小暮」と飼い犬の「ジョン」。それぞれが一見してバラバラであるが、人間特有の悩みや欲求、欠点といった部分で関係性が保たれているように思う。小暮荘の住人を取り巻く登場人物も変わっている。繭の働く花屋で定期的に薔薇を買う「ニジコ」、汚れたジョンを洗いたいトリマーの「美禰」、美禰と心を交わすヤクザの「前田」。いずれも小暮荘との関係はないが、小暮荘の住人と関わることで、それぞれの悩みが解消されている。

物語を振り返って、小暮荘は心の傷を”環境”という治療方で治していたのかもしれない。そういう人が集まってくるからこそ、不思議と一体感が生まれ繋がり、傷が癒やされていくのが伝わってくる。そして、自分の中で答えを導き出し一歩踏み出すことができるのである。

現代においては、隣人との関わりを煩わしいと思うものである。そんな時代に、どこかで繋がっていたいと思う人間臭い部分を「小暮荘」を通じて描いている。現実世界ではなかなかできないが、自信を曝け出し悩みや迷いを他者と共有すればどんなに楽に暮らせるだろうかと感じさせる作品である。

0 件のコメント:

コメントを投稿