本のある生活~良書との出会い~: 「書評」日本沈没/小松左京

2024年3月3日日曜日

「書評」日本沈没/小松左京

日本沈没
[著書]日本沈没

[著者]小松左京

[発行]文藝春秋(2017年7月26日)

「最近の日本は、身ぶるいしているみたいだ・・・」日本各地で地震が続く中、いち早く異常を察知した地球物理学者の田所博士は、深海の調査で大きな異変を目の当たりにする。そして、恐ろしい予測を訴えた。「日本は近いうちに沈む・・・」様々な騎乗気性が巻き起こる中で、日本全体を巻き込んだ、生き残り作戦が始まる。

この作品が発表されたのは1973年であるが、その後阪神淡路大震災、東日本大震災、熊本地震、能登半島地震など、日本を揺るがす地震が度々発生している。作品自体は多数映画化・テレビドラマ化されており、世代を問わず幅広く認知されている作品であろう。”日本沈没”という一見すると非現実的な内容であるが、この10年を振り返っても多くの地震が実際に発生しており、地震発生のスパンとしてはかなり短期間に集中してるように感じる。作品自体もリアリティがあり、そういった意味では現実に頻発する地震が起こるたびに、本当に日本が無くなってしまうのではと感じてしまう作品である。

本作では多くの日本人が海外へ避難しているが、本当に辛いのはその後の生活であろう。国土を失った民族が他の土地で生きていくのは大変困難である。世界では宗教問題も相まって、同じような問題が繰り返されている。作中で50代の男性が家族のために「生活を立て直す」ことを自身に言い聞かせるが、絶望感と使命感、虚無感など様々な感情が入り混じって涙を流すシーンが印象的であり”日本人”を象徴しているようである。作者である小松左京は「脱出した日本人が多すぎた」と悩んでいたが、自身の戦争体験もあり生き残ったが故に辛い生活をさせてしまったことへの後悔もあったのだろう。確かにいっそ死んでしまった方がよかったのかもしれないが、小松左京は日本人を死なせることはできなかった。多くの日本人を救出する作品となったのは、日本が大好きであり日本人ならどんな苦難にも耐えられる、世界のどこでも受け入れてもらえると信じたからだろう。

個人的なことだが、私も熊本地震を経験した。熊本地震は前震と本震の2度に渡る大地震となったが、私は経験したといってもその場にいたわけではない。単身赴任していたため直接被災しなかったが、家族が熊本で被災したのだ。幸い家族に怪我はなかったが、家の中は物が飛散し一定期間の避難生活をすることとなった。私は友人に車を借りて家族の元へ行くよう手配していたのだが、家族からは「二次災害になるから絶対に来るな」と強く拒否されてしまい、結局何もできないまま月日が流れてしまった。本作とのレベルは違うが、何もできない自分に憤りを感じたことをハッキリと覚えている。やはり無理をしてでも向かうべきだったのではないか、もっとできることはあったのではないかと思うと後悔してもしきれないが、その時の気持ちと本作に登場する登場人物の葛藤と重なる部分もあり、自分ごととして読み進めることができた。

日本は近年、地震だけでなく津波や大雨など自然災害が頻発している。また新型コロナウィルスにより世界的なパンデミックも発生し、国民の防災意識は高まってきていると感じる。しかし多くの人はこのような災害で被災していないだろう。自身も被災する恐れがあることを十分に意識し風化させないためにも、このような作品が読み続けられることを願いたい。

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