[発行]角川文庫(2021年8月25日)
女神の呪いによって転生を切り返すタラニス。それでも愛するミアンにもう一度会えることを信じ、そして2500年もの時を経て巡り合った奇跡。女神の呪いから逃れるため自らも呪われてしまうミアンにタラニスは愛するが故の決断をする。
古の時代に英雄として生れたタラニスは、聖剣を得ることと引き換えに女神以外を愛することを禁ずる”誓い”を交わしてしまう。ある時、英雄タラニスに竜の征伐が命ぜられる。その時同行したミアンを愛し、女神の呪いによって20歳までの命の転生を繰り返すことになる。人だけではなく植物や動物などあらゆる生物に生まれ変わり、終わらぬ命を続ける日々はどんなに辛く孤独だったことだろう。その中にあって正気でいられたのは、愛するミアンに会いたいという強い気持ちがあったからであるが、それだけではないと思う。繰り返される転生では気持ちを打ち明けられる仲間や、絶えず側に何かしらの生き物の存在があったからこそ、気の遠くなるような時間の中でも自分を見失うことなく生きてこられたのだろう。そんな一途な恋に奇跡は起こったのである。
光太と美桜の関係に欠かせないのがハルカの存在である。一見ただの友達のようであるが、ストーリーが進むにつれ、2500年もの間2人を見守り続け、引き合わせたのはハルカのおかげだろう。そういった意味ではハルカを含めた3人が100万回生きてきたのかもしれない。
本作は光太(タラニス)、美桜(ミアン)、ハルカの視点で描かれており、それぞれの思い、すれ違い、後悔などの描写が面白い。一人の人物を多方面から描くことで違った見え方となり、同じストーリーでも何倍も楽しめる構成となっている。初めは「なぜ?」っと感じることもあるが、読み進めていくうちに物語がつながり疑問だった部分が見えてくる描写に引き込まれてしまう。初めて出会ったのに何か懐かしい、長い時間離れていたのに変わらない距離感、姿形は違っても通じ合う共感など、何か懐かしい不思議な気持ちにさせる作品である。
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