本のある生活~良書との出会い~: 「書評」虫とゴリラ/養老孟司・山極寿一

2021年10月4日月曜日

「書評」虫とゴリラ/養老孟司・山極寿一


虫とゴリラ
[著書]虫とゴリラ

[著者]養老孟司・山極寿一

[発行]毎日新聞社出版(2020年4月30日)

解剖学者で虫の採集を行っている養老孟司氏とゴリラの研究者である山極寿一氏が、それぞれの視点で現代社会への問題提起や自然と共に暮らす社会について対談をまとめた作品

■感想

虫と動物の専門家から見た、人間の特性や進化を談話を通して分かりやすく解説した内容となっている。昨今は自然や動物と接する機会が急激に減っている。減っているだけならまだしも、それ自体を避けるようになっていると思う。本書でも「自分でコントロールできるものとばかり付き合っていると『共鳴』は生まれない」と述べられているが、そういったことを経験することによって、危機管理能力やスキル、洞察力、コミュニケーションなどを養って行くにであろう。現代社会では直に経験するのではなく、教育という形で習得させようとしているが、自分ごとと捉えることは難しいし、直ぐに結果や成果が出るわけでもない。やはり“経験”とは何にも変え難いものであり、成長への近道である。「百聞は一見にしかず」「可愛い子には旅をさせろ」とはよく言ったものだ。

情報が信頼をつくるのではなく、情報自体がその信頼を裏切り、自ら一人歩きをして、人間個人を支配していくという話になる。つまり人間が情報をコントロールするんじゃなくて、情報が人間をコントロールする

情報化社会では膨大な情報がもたらされている。溢れる情報を取捨選択し正しい情報を見極めることが今を生きる私たちに必要なスキルだろう。情報に踊らされないためにも、様々な経験を通じて自身で判断・選別できるようにならなければ、いつまでも誰かに頼っていかなければならず、自律した人間にはなれないのだと思う。

2人の対談は日本の文化から情報の定義について語られている。昔の日本家屋にあった室内と屋外の間にある縁側の曖昧さや日本語が持つ述語的な表現が現代ではなくなり、均一化・限定化されていった。その結果、コミュニケーションが希薄となり自分に有利な情報しか信じなくなったという趣旨である。確かにそういう部分も大きいだろう。私は少し違った見方をしている。そういう情報の中では何を信じて良いか分からず、不安なのではないかと思う。だからこそ、根拠や確信が欲しくなる。ネット情報にあるからとか、誰かが言っていたなど、自分の意見・意志よりも何かに縋りたいのだろう。自分勝手な行動はもちろん慎むべきだが、誰かが作ったルールに縛られて行動ばかりしていては、面白くない機械的な生活になってしまい寂しい限りである。

対談の中身は日本の歴史や医学、統計学、AI、エネルギー問題など様々なジャンルから意見が交わされている。さすがに博士だけあって哲学的な内容も多く、理解に苦しむ部分もあるが、2人が最も言いたかったのは、将来への警笛だろう。“何に対する警笛?”思うだろうが、何か一つのことではないだろう。多様化する社会において、均一化される仕組み・・・この矛盾が良い方向に進むのかもしれない。しかし、過去の時代はそんな事を考える必要すらなかったし、それで良かったのである。本書を読み終えて、“新しいから”とか“古いから”ではなく、まずは受け入れて経験する・感じることが重要だと思う。虫やゴリラだけでなく、目にするもの全てが人生の教材なのだろう。



0 件のコメント:

コメントを投稿