[発行]ダイヤモンド社(2015年3月12日)
三菱地所グループで不動産の総合的な管理・運営をする会社として誕生した「三菱地所プロパティマネジメント株式会社」(以下 三菱PM)。その設立の経緯や仕事を通じて培われたマインドなど、一企業人として参考となる一冊である。
プロパティマネジメントとは単なるビル管理会社ではない。今でこそ、プロパティマネジメントは認識されてきたが、その概念すらなかった時代に周りに考え方を植え付けることは大変だったであろう。
プロパティマネージャーの仕事とは、本質的には「提案すること」だ。決定するのはオーナーだが、私たちはプロとして提案をするのが仕事です。
オーナーから預かったビルを自分のビルと認識し”自分事”として日々の管理に取り組むことが重要なのだ。こういったビル管理だけでなく、雇われた社会人であれば、自分事として捉えていないことが多いのではないだろうか。どうしても会社の金、他人の物という意識があり(実際、個人の所有ではないのだが)、結果としてコストアップやムダな作業も発生することもある。特にプロパティマネジメントではオーナーに変わって、ビルの主人としてお客様対応が求められるのである。
本書のタイトルにあるとおり「街ごとプロディース」という点をプロパティマネジメントの一つと捉えて実践していることに大変興味が持った。ビル単体ではなく周りのビルや街全体を巻き込み、イベントやPR活動などを行う専門の部門を設置し、積極的に取り組んでいる。通常の企業ではそこまでの活動はできないだろう。しかし、自分たちだけではなく街全体で発展したいという思いが結果的に収益につながり、またテナントや地域から信頼され選ばれる企業になるのだ。事実、この取り組みが評価され、三菱地所以外のビルも多数の管理を受託している。
一方で、プロパティマネジメント業務の根幹はビルの維持管理である。これは地味な仕事で、何もなくて当たり前、何かあれば責任を問われる・・・一見、理不尽に思えるこの仕事に、どうやってモチベーションを維持しているのか。その答えも社員のマインドにあった。
自分の担当するビルは「自分の家のように思っていないとうまく扱えない。自分の家と思うから、ゴミが落ちていれば率先して拾うし、工事もできるだけ費用はかけずによりよいものを、と知恵を振り絞る。
何もない日常を維持することは大変である。その”日常”を保っていることに対して評価してもらえない、伝わらないこともあると想像する。そうなれば「言われたことだけやればいい。それ以上はやってもムダ」と思ってしまい、自分の仕事の達成感や意識も低くなってします。三菱PMでは社員のマインドを向上させる一つの仕組みとして、ビルマネージャーという尊敬される人材・目指すべき人材の育成に力点を置いているのであろう。本書では触れられていないが、プロパティマネジメントに従事する方の評価手法が気になるところである。
変わり続けるまちなみに、変わらない信頼を。
世の中は常に変わり続ける。技術の進歩やルールだけでなく、人の考え方や年齢による変化もある。特に近年は様々なことが急激に変化している。そんな中で”日常を維持する”というのは、変化する日常に合わせて柔軟に対応することだと思う。これまでと同じやり方では変化に対応できず維持することはできない。「相手の気持ちになって」「ニーズを汲み取り」などありふれた言葉だが、実践するのは大変である。それができてこそ、信頼を勝ち取れるのである。読み終えて「変わらないために、成長するために、自身が変わること」がこれまでも、これからも必要なのだと思う。本書は不動産業界に関わる方だけでなく、物事の考え方を知る上で、様々なビジネスパーソンにも読み価値がある。
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