[発行]双葉文庫(2015年6月19日)
学校を休み病院で診察を受けていた僕は、ロビーで「共病文庫」と書かれた本を拾う。それは同じ高校でクラスメートの山内桜良の日記だった。そこには膵臓の病気で余命が宣告されたことが記されていた。この”秘密”を知った僕は、残された時間を桜良と過ごすことになる。
■あらすじ
学校で友達のいない(友達をつくらないといった方が正確だが)”僕”と、クラスでも明るく友達も多い”彼女”(山内桜良)は「共病文庫」をきっかけに【仲良し】になる。というか、彼女が積極的に僕に関わってくる。僕にとっては、それは非日常であり刺激的であったが、彼女の親友からは嫌われてしまう。ある日、彼女の「電車でどこか行こう」との誘いに僕は同意したのだが、宿泊旅行だった。その日のよる二人は「真実と挑戦」のゲームをする。真実を選べば相手の質問に真実を答える。挑戦なら相手の指示に挑戦するゲームである。その中で彼女の死に対する本音に触れた僕は、真実を答えることができず、思わず”挑戦”と言ってしまう。雨の降るある日、彼女の家に行くことになる。そこで、彼女のイタズラに怒りを覚えた僕は彼女と険悪になり家を出るが、そこで元彼の学級委員(タカヒロ)と口論になる。それがキッカケで彼女と仲直りするが、翌日から彼女は入院してしまう。入院中に彼女と接する中で、僕は人との関わりや誰かと過ごす時間の心地よさを喜んでいた。退院の日、カフェで待ち合わせをする。彼女から帰宅したメールをもらい、その思いを返信する「君の膵臓を食べたい」と・・・しかし、彼女は現れることはなかった。
■感想
本作は映画化・アニメ化されており、それだけに感動を与える作品である。桜咲は自身の余命を知った上で、懸命に明るく、そして一生懸命に生きる姿は心を打たれる。病気の事実を知った僕(志賀春樹)との関係は、恋人でもなく友人でもなく「仲良し」という関係で表現されており、恋愛小説としては読者はもどかしい面もあるかもしれない。しかし、正反対の性格を持つ二人が自分にないものを相手に見出し、そこにお互いが惹かれ合うところに本作のポイントがあるのだろう。ラブストーリーでは物足りないし、友情を重視しているわけでもない。その微妙な関係を”死”という共通項で繋げることで、それぞれの思いがより効果的に伝わってくる。その繋げるツールとして登場するのが「共病文庫」である。二人の出会いんキッカケはこの文庫なのだが、桜咲は”偶然に彼(志賀春樹)が共病文庫を見たから”と言っているが、私はこの偶然は”必然”だと思っている。もっと言えば「桜咲は彼が共病文庫を見るようにした」とあえて思うようにしている。そうすることで、より深いレベルで二人の関係を見ることができると思う。(人それぞれだが・・・)
登場人物としておもしろいのが”ガムをくれる友人”だろう。学校で人との交流を拒否し友人を作ろうとしない僕に、唯一”友人”として接している。決して言葉は多くないのだが、周りの反応とは一線を画し、接してくるのは勇気がいることだろうと思う。さりげなく情報を伝えてくる優しさもあり、本作の影のキーマンとなっている。また僕の両親もさりげないサポートをしている。何も知らないようでしっかりと子供を見ているところが、親の愛情を感じることができる。
余命を知りながら、それを誰にも伝えず普通に生活することはなかなかできないと思う。その事実を知れば、誰しも優しく接するだろう。あえて桜咲はそれを選択しなかったのだが、一人のときは泣いていたと書かれているものの、実際に泣いている部分は描かれていない。細かい部分であるが、桜咲の強さ、弱さ、恐怖を効果的に伝わってくる。映画では友人の描き方が若干異なる部分もあるので、見比べるのも楽しみ方の一つである。
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