本のある生活~良書との出会い~: 「書評」ぼくは明日、昨日のきみとデートする/七月隆文

2021年5月1日土曜日

「書評」ぼくは明日、昨日のきみとデートする/七月隆文

ぼくは明日、昨日のきみとデートする
[著書]ぼくは明日、昨日のきみとデートする

[著者]七月隆文

[発行]宝島社(2014年8月20日)

美大に通う南山高寿は通学の電車で見かけた福寿愛美に一目惚れする。勇気を出して声を掛け、交際することになるが、彼女といると心地よく、不思議なくらい全てがしっくりくる。そんな愛美には隠された秘密があった。

■あらすじ

南山高寿は5歳の時、地震で被災しある女性に助けられる。その女性と5年後に再会し鍵の掛かった箱を渡される。大学までの電車に乗っていた高寿はラッシュに合わせて乗ってきた福寿愛美に一目惚れする。降りる駅ではなかったが、愛美の後を追い、一目惚れしたことを告げ、付き合うことになる。愛美は高寿にとって違和感がなく「完璧」だった。愛美との時間はとても楽しい時間だったが、彼女は知らないはずの出来事を知っているような感じがあった。ある時、愛美が忘れていったメモを見つける。そこに書かれていた内容は未来の出来事だった。愛美はなぜ未来のメモを持っているのか。なぜ完璧な存在なのか。二人の甘く切ない運命が描かれた作品である。


■感想

本作はファンタジー恋愛小説である。序盤は出会いから恋人になるまでの展開であり、読んでいる時は一般的な恋愛小説で、特に感想はなかった。しかし、読み終えて改めて振り返ると、愛美の全てを知った上での振る舞いや、時折見せる涙に深い意味や様々な感情があることに気いた。愛美の気持ちを分かった上で再読し、その何気ないストーリー一つひとつに感動したことを覚えている。

中盤には愛美の秘密や運命が高寿にも明かされ、同い年となった二人の別れの日までの期間が描かれている。そこには愛美は何もかも知っていることに対して、高寿の裏切られたという気持ちと、それ以上に愛美が高寿との時間が常に「最後」であることの辛さがあることなど、揺れ動く感情を見事に表している。早い段階で本作の設定が明らかとなるので、終盤への展開に不安があったが、その設定故に高寿と愛美の関係や接し方の変化に惹かれるのである。読者自身が二人に感情移入しやすく、何とか同じ世界で暮らすことができないか。最後はそういう展開に・・・・っと思うだろう。

終盤にはメモに記された通りに日々を過ごすことになるが、その中で高寿の親に愛美を紹介するシーンがある。親に彼女を紹介することは勇気がいることだが、高寿が愛美をいろんな人に知ってもらいたい、記憶に残したいとの思いが伝わってくる。本作の深いところは、作品に描かれた部分だけではなく、本作の設定から、これから先の二人の人生を思うと締め付けられるところにある。高寿は年を重ねた時、今度は何もかも知っていて、若い愛美と接しなければならない。それを思うと切ない気持ちになる。読者を引きつけるこの設定が本作の醍醐味である。

本作は映画化もされている。それだけ多くの人に共感が得られた作品である。読み終えて高寿と愛美の気持ちを踏まえて、何度も読み返したくなる。読み返すたびに新たな思いで感動できる作品である。

余談であるが、高寿は作中で小説を書いている。その作品は愛美も面白いと評価しているが、是非読んでみたい。


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