本のある生活~良書との出会い~: 「書評」ザ・ラストマン/川村隆

2021年4月13日火曜日

「書評」ザ・ラストマン/川村隆

 ザ・ラストマン

[著書]ザ・ラストマン

[著者]川村隆

[発行]角川書店(2015年3月10日)

部下に仕事をしてもらうにしろ、最終責任を取るのは自分自身であり、それがラストマンだ。著者はこれまでの上司の言葉やハイジャックに遭遇した経験から「ラストマン」であり続けることを心に刻む。そこには人を惹きつける魅力と覚悟が見えた一冊である。

経営危機だった日立製作所を立て直すために様々な施策に取り組んできた川村氏だが、自らがラストマンになる覚悟はもとより、皆がラストマンになるような仕掛けを実行したところが成功の鍵だろう。具体的な手法は本書を見てもらうとして、キーワードは「スピード」と「競争」である。大きな組織にありがちな、意思決定の遅さや保守的な業務体質(いわゆる大企業病)を徹底的に見直すことによって、意識が変わり業績の回復につながっている。大きな改革は衝突や反発があるものだが、強いリーダーシップと決断でやり抜くことが、ラストマンなのだ。

「指導者が備えるべき能力」①先見の明がある、②時代の流れを的確に読める、③人の心を掴むことができる、④気遣いができて人徳がある、⑤自己の属している共同体・組織全体について構想を持っている、⑥大所高所から全体が見渡せる力量を持っている、⑦上に立つにふさわしい言葉遣いや態度が保てる、⑧従来のしがらみに囚われないで、痛みを伴う厳しい対策を実行できるブレない覚悟を持つ

ラストマンを生みだすためには、本人の意識や動機付けだけではなく、組織の体制や環境整備も重要だとある。例えば、能力に応じた賃金制度、年齢や国籍に関わらない異動・昇進、効果的・効率的な組織(統廃合)、徹底的なコスト削減などである。年功序列が色濃く残る日本企業では”変化”に対する嫌悪感がある。今のままが良いという保守的な風潮があるのではないか。企業の成長や競争に打ち勝つには、時には痛みを伴う改革も必要だろう。本書は”日立”というグローバル企業の中で、会社だけでなく個々人の意識改革が必要であり、現状に満足していては、「茹でガエル」になってしまう。自分に厳しく意識が高い人は、周りを惹きつけることができる。カリスマ性とか強い牽引力ではなく、その人そのものに魅力があるからこそ、情報や・人・者が集まるのである。私の考えるラストマンとは「この人のためにやってやろう」と思われる人物だと思う。そうなれれば幸せである。

一方で、ラストマンになれないのはどんな人だろう。本書では3つのタイプが紹介されている。「①最初から関わらず逃げる人、②一度は引き受けたのに途中で逃げ出す人、③自分ではできないのに口だけ出す評論家タイプの人」である。その中でも特に③のタイプが最も仕事や職場環境に悪影響があると思う。どの職場にも少なからずいるのではないだろうか。正論を言うばかりで自分では何もしない。言っていることは間違っていないが、実行は他人任せ(というか、自分の仕事ないではないと言う)にする。特に現場実務では”まず行動する”ことが求められる。間違っていても行動することで解決に向かう事もある。全ての仕事が机上で解決できるわけではない。現場の肌感やニュアンスも重要な要素である。私はこういうタイプが一番苦手(嫌い)である。仕事をするのに評論家は不要である。

読み終えて、改めて本書のタイトルである「ラストマン」を考えてみた。その表現からは最後に責任を取るリーダー像が浮かんでくるが、それだけでない。冒頭に述べたようにラストマンを作り出す仕掛け・環境はスピードと競争であるが、一人の人間として何事にも誠実で実直に取り組むことができる人をラストマンというのだと感じた。年齢や役職ではなく、それぞれの立場で一生懸命取り組む姿勢は、評価され信頼され期待される。結果として、昇進につながり強い権限をもつことができ、より多く・大きな仕事を任されるようになる。ラストマンとは自身の努力ももちろん必要だが、その人の行動によって周りから「ラストマンにさせてもらえる」のだろう。本書は幅広い世代で共感できるが、若い世代に読んでおくことをお勧めしたい。


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