本のある生活~良書との出会い~: 「書評」ダイイング・アイ/東野圭吾

2021年3月14日日曜日

「書評」ダイイング・アイ/東野圭吾

ダイイング・アイ/東野圭吾
[著書]ダイイング・アイル
[著者]東野圭吾

[発行]光文社(2007年11月25日)

ある深夜の道路で、複数台の交通事故が発生する。この事故によってさまざまな人たちの人生が狂い出す。そして、事故で死亡した美菜絵が再び目の前に現れる。美菜絵は死んでいなかったのか。本当に幽霊が存在するのか。事故の当事者である慎介はどうなるのか。

▪️あらすじ

バーテンダーの雨村慎介は閉店後、店を出た際に何者かに襲われる。警察の捜査によりその犯人が明らかとなるが、その男はマネキン職人の岸中玲二という男で自殺していた。警察が岸中にたどり着いた理由は、1年半前に慎介が起こした交通事故で死亡した岸中美菜絵の夫だった。しかし、慎介は自分が起こした交通死亡事故の記憶がなくなっていた。

仕事に復帰した慎介だが、ある日、怪しい謎の女性客が現れる。慎介はこの女性(瑠璃子)に惹かれてゆく。記憶がないことや、怪しい女性など、モヤモヤした日々を送っていたある日、同棲していた成美が行方不明となる。警察に捜索願を出しに行くと、慎介の事故を担当した刑事(秋山)に会う。秋山から事故の状況を詳しく聞きと、慎介が岸中美菜絵と衝突した後に、木内春彦が運転する車が衝突しそれが直接の死因だったと聞かされる。慎介は、そのもう一人の車を運転していた木内の情報を集め始めるが不可解な点が多い人物であった。慎介は岸中玲二のことも調べていたが、玲二の隣に住んでいる住人が玲二が発見された前夜に1年半前に事故で亡くなった美奈江が部屋から出て来るのを見たと言う。

慎介は瑠璃子と再会し、彼女の自宅に招かれる。そこで眠っている間に鎖を繋がれ監禁される。そして瑠璃子の顔は、自殺した玲二の作った美菜絵のマネキンと同じ顔であることに気づく。瑠璃子が留守にしている間に、刑事(小塚)に助けを求め助け出される。そして監禁された部屋を小塚と共に調べると、そこは”美菜絵を作る”作業場だった。

その後も慎介は自身の事故の真相を突き止めるため、木内の身辺を中心に調べる。その中で事故は慎介が起こしたものではないことがわかる。事故と瑠璃子の関係は何か。この事件の謎が徐々に解き明かされていく。


▪️感想

主人公である慎介を中心に事故や事件が発生するが、それぞれの登場人物が自身の保身や事故中心的な行動が複雑に絡み合いストーリーは展開する。また、慎介本人の記憶喪失でありその点が更に難しくさせるのだが、そのことがキッカケで慎介は謎を解き明かす展開は、先が読めない部分が多く引き込まれてしまう。東野作品には珍しく心霊的な要素も含まれているが、美菜絵の後悔や憎悪・怨念をより強く感じることができる。タイトルの「ダイイング・アイ」にもそう言った思いが伝わってくる。この作品で最も印象的なのは瑠璃子の復習方法だと思う。美菜絵を事故で死亡させた関係者には自分を殺させることで生きながら苦痛を与えようとするが、それを邪魔する者は容赦無く排除しようとするところだろう。美菜絵の夫である玲二がマネキン職人で美菜絵の死後、そっくりなマネキンを作るところも、怖さや憎しみの深さを表している。全体的に難しく複雑な展開であり、色々な事件や人間関係を整理しないと「あれ?どうだったけ?」と思う時があるので、一気に読んだ方が楽しめる作品である。最終的に誰もハッピーになれないのは多少気が重くなるが、全ての謎が解った時、「そういうつがなりだったのか」とスッキリできる。本作は、複雑に絡み合う謎解きとしては東野作品の醍醐味を存分に堪能できる作品である。



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