本のある生活~良書との出会い~: 「書評」マスカレード・ホテル/東野圭吾

2021年3月5日金曜日

「書評」マスカレード・ホテル/東野圭吾

マスカレード・ホテル
[著書]マスカレード・ホテル
[著者]東野圭吾

[発行]集英社(2011年9月10日)

都内で発生している連続殺人事件。その次の現場が山岸尚美が勤務するホテル・コルテシア東京だと警察から連絡がある。なぜ次の現場がわかったのか、犯人は誰なのか。ホテルに潜入捜査する新田浩介とともに、犯人の仮面を剥がしてゆく。マスカレードシリーズの第1弾である。

▪️あらすじ
3件の殺人は年齢も職業も場所も違う人間が殺害されていた。しかし、そこに不可解な数字が並んだメモが残されていた。偶然にしては不自然に似通った数字であったため、連続殺人として捜査が進められていた。そして次の犯行現場が、ホテル・コルテシア東京だと確信した警察は、なんとかホテル側の承諾を得て潜入捜査を行うことになる。フロントクラークに扮した新田は指導係の尚美とともに、ホテルマンとして業務を行っていた。ある日、視覚障害のある老婦人(片桐瑶子)が一人で宿泊していた。婦人の不自然な行動に実は見えているのではないかと疑いを抱くが、そこには意外な理由があった。新田は協力を仰ぐため機密情報だった数字の謎を尚美に教えるが、その協力とは従業員が犯人の可能性も含め監視することだった。同僚への裏切り行為と感じた尚美は断ってしまう。
安野絵里子がチェックインに来たのはそんな時だった、安野は受付が終わると写真を出し「この男を絶対に近づけないでほしい」を行って来た。捜査への関係は不明だったが、深夜にこの男(館林光弘)が現れるが、スイートルームを予約していた。そして、安野と館林は二人とも偽名を使っていたが、事件との関係はあるのだろうか。
最初の事件について尚美の助言をヒントに新田とコンビを組む能勢は容疑者のアリバイを確認してゆく。そんな時、一人の男性(栗原健治)が宿泊するが、執拗に新田に難癖をつけてくる。新田は理不尽な要求に苛立ちながら要求に従っていたとき、栗原が高校時代の教育実習生だと思い出す。その時に友達が行った悪戯の逆恨みだった。しかし、この栗原とのやりとりが事件のトリックを見抜くキッカケになる。容疑者のアリバイを覆す推理を裏付けるため、潜入捜査で動けない新田は能勢に極秘捜査を依頼するが、能勢は対策本部に報告していた。新田の推理は的中しており、複数の犯人の存在が明らかになる。捜査も大きく進展することになるが、新田は潜入捜査を支持され犯人逮捕の現場に出られない。納得できない新田は、潜入捜査にも身が入らなくなってしまう。
尚美は同期でブライダル課の仁科理恵から呼び出される。ホテルで披露宴をする新婦がストーカー被害にあっているようだが、事件と関係があるのか聞きたいとのことだった。一方、事件に関与してくる尚美に対し、新田は犯人の情報をうっかり漏らしてしまう。事件の経緯を公表すればホテル・コルテシア東京で起こるであろう殺人は回避できる。しかし犯人は永遠に逮捕できない。そんな葛藤の中で、仁科理恵の披露宴まで公表しないことを約束する。
新田は尚美とのやりとりから、それぞれの殺人の首謀者が他の殺人を隠すために行われたのではないかと推理する。それを裏付けるため能勢と協力しある事件で殺された男が、ホテル・コルテシア東京を利用していたことがわかった。
ホテルでは結婚式が順調に進んでいた。そんな時、老婦人(片桐瑶子)が再び現れる。一体犯人は誰なのか。連続殺人はなぜ起こったのか。そして首謀者の真の目的は何なのか。

▪️感想
本作はマスカレードシリーズの第一弾であり、映画化もされている。主人公である山岸尚美と新田浩介は仕事にプライドを持っている。そんな二人が同じホテルという場所を舞台に反発なしがらもお互いの能力を徐々に認め合ってゆく。尚美はホテルマンとして、どんな時にもお客様最優先を徹底している。そんな尚美の印象的な言葉がある。
「私たちはお客様の幸福を祈っています。でも自分たちが無力であることもわかっています。だからこそ、御出発のお客様には、こう声をお掛けするのです。”お気をつけて行ってらっしゃいませ”と」
一歩ホテルから出れば、ホテルマンとして何もできないが、ホテルを利用してくれたお客様への最後のメッセージとして”お気をつけて”を添えるのことに深い意味があると思う。著者はホテルでの業務経験があるかはわからないが、一つ一つの言葉に納得感がある。尚美は強い女性として描かれているが、相手のことを誰より気遣いのできる女性である。
一方の新田はプライドが高く頭も切れるので、どこか鼻に付く性格だが、尚美と共に行動する中で、良い意味で丸くなっていく。自分の成功・成果ではなく、仲間を信頼し同じ目標に向かって協力することを学んでいく様は、人の成長という視点で読んでも面白い作品である。
ストーリーとしては、第2弾のマスカレード・イブのエピローグとつながっている。複数の殺人事件の関係やホテルを訪れるさまざまな宿泊客が登場し多少複雑であるものの、読み進めていくにつれ”あの時のあの人が・・・・”っという展開が面白い。タイトルどおり登場人物がさまざまな「仮面」を被っており、最後まで犯人の目的やターゲットがわからず、どんどん読み進めていきたくなる。
もう一人本作を引き立てているのが、能勢刑事だろう。目立たないが愚直にそして冷静に物事を分析し、信じたことを徹底的に追求する。また年齢に関係なく信じられる人に対する信頼は、フィクションとはいえ見習わなければと感じた。能勢がいなければ本作の魅力も半減すると言っても過言ではない。事件解決後に見せる”粋なはからい”も彼ならではである。
展開が読めない本作は、最後までハラハラできる作品であり2度読み返した。登場人物の一人一人に注目しながら読み返すと何度でも楽しめる作品なので、ぜひ読んでもらいたい。


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