本のある生活~良書との出会い~: 「書評」ビジネスマンの父より息子への30通の手紙/キングスレイ・ウォード

2021年3月27日土曜日

「書評」ビジネスマンの父より息子への30通の手紙/キングスレイ・ウォード

ビジネスマンの父より息子への30通の手紙

[著書]ビジネスマンの父より息子への30通の手紙

[著者]キングスレイ・ウォード(城山三郎 訳)

[発行]新潮社(1994年4月25日)

タイトルからもわかるとおり、父親がビジネスで培った知識・経験を、これから社会に出る息子に対して手紙という形で語りかける。父親が心から子供の成功を願い、困難に打ち勝つノウハウを凝縮した作品である。

著者が大きな手術を受けたことをキッカケに15歳の息子がこれから社会で生きてく上での教訓を伝えるために、これまでの経験を踏まえて息子の成長(学生時代〜就職〜結婚など)の場面で手紙という形でアドバイスする展開となっている。本書の面白いところは、それぞれの手紙の送り主にペンネーム(?)がついている点である。例えば、第1通「子煩悩の親父より」、第3通「君の応援団長より」、第11通「愛の天使より」などなど、父親としての厳しいメッセージもあるが、手紙の主にペンネームをつけることで、息子への深い愛情が伝わってくる。30のテーマ(30通の手紙)があるが、その中から興味深いテーマを紹介したい。

主人公である息子は壁にぶつかりながら成長するが、その時々で実業家の先輩として親として言葉をかける。著者はまず息子の能力や行動を客観的に捉え、その上で足らない部分や注意すべき点を語りかけている。例えば「君は客観的に見積もる良識がある。備わっていないのは経験だけだ」「君の好き嫌いの基準が狂っていないか。そうであれば精神科医のもとへ送らねばならない」など厳しくも適切なアドバイスである。これは親子ではあるものの、私たちも職場など周りに興味・関心を持つことの重要性が示されている。興味がなければアドバイスもしないし、関心がなければ関わることもない。それではどんな組織でもうまくいかないだろう。

ある時、息子の交際費の使い方に疑問を持った父は、それが本当に意味のあることなのか、価値のあることなのかを問う。どんなに裕福でも地位があっても、お金の使い方一つで豊かな人生が送れるとは限らない。

名声と富は、一生のうちのほんの一瞬で終わることもあるが、真実と信用は価値のある人生の支柱である。円満な家庭、健康、真の友人、忠実な社員、真実の愛、あるいは心からの敬意といった窮極的な宝物を金で変えた人はいない

金は人の心を変える力がある。相手より優位になった気になる”麻薬”である。あくまで金は人生を豊かに送るための手段・道具であって、本質ではない。正しく使えば何倍もの力になる。信用や信頼を金で買えたらどんなに楽だろうと思う反面、それこそ”金で解決できる世界”であり、正直者がバカをみるであろう。

優れた人物の特質として”問題を認めることのできる人”と”失敗を認めることのできる人”であり、問題や失敗を起こさない方法は”チームワーク”だと筆者は息子に伝えている。当たり前のことだが、私が注目したのはこの手紙のテーマが「効率的な管理」とういことである。社員を尊重し認め評価することでやる気を引き出し、目標に向かって全員が取り組めば、最大の結果が得られる。しかしそれは理想論であり、実際には全員が同じ方向を向いて進むことはないのではないか。一生懸命頑張っている人がいる一方で、楽をする者ががいるのも現実である。やる気やモチベーションは人それぞれであるが、私は組織にいる以上、多少自分の考えと違っても進むべき方法が定まれば、それに向かって取り組むべきと考えている。実際筆者も”全員を常に満足させることは実際問題として不可能”と言っている。

息子は会社で社員に解雇を言い渡さなければならず悩んでいる。筆者はその苦悩に対して社員の資質についてアドバイスする。

何らかの形でそれをこなす資質を欠いている者、地位以上に力がありすぎて退屈している者が大筋だが、時には不和や道義的な問題を引き起こす者もいる

能力は人それぞれであり、能力が発揮できる仕事や職場で働けるかわわからない。適材適所に配置するのは上司や会社の責任だと思う。しかし、地位が上がるほど能力を発揮できない者や勘違いする者もいる。そうなれば本人の周囲も不幸である。地位・権力・権限とは大きな武器であるが適切に使わなければ逆効果になるだけでなく、大きな損失である。能力のないものに武器は持たせてはならない。使い方やその力・影響力を知らないのだから。本書でも「彼の技能は私たちの事業では充分に生かせなかったが、他では強みになるのではないか。気を落とさないように転職すればお互いに特になる」とある。同感である。

本書は息子が17歳の時から書き始め、その息子に会社を譲る20年間が書き記されている。”息子への手紙”であるが、振り返ると、息子への「遺書」なのではないか。自身が立ち上げた会社に息子が就職し、失敗や苦悩をしながら成長する姿に、時に上司として時に父親としてユーモアを交えながら言葉を伝えている。時が進むにつれて、自身のアドバイスが不要になっていくことに、息子の成長を喜ぶ反面、寂しさが伝わってくる。

著者が本書で(息子に)一番伝えたかったことは何かと考えてみた。私の結論としては「準備の重要性」と「意思疎通を図ること」だと思う。自分の能力の中で考えられる準備を納得するまで行えば、たとえ失敗しても後悔しない。またビジシネは必ず相手がいる。その相手を十分なコミュニケーションを重ねれば信頼につながり、自分が苦しい時に助けてもらうことができる。20年に及ぶ”手紙”を読んだ息子はどう感じただろう。手紙と書く習慣が希薄となった今だからこそ、返って思いが伝わるのかもしれない。私も息子がいる父親として、手紙を書いてみようと思う。


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