本のある生活~良書との出会い~: 「書評」ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー/ブレイディみかこ

2020年12月20日日曜日

「書評」ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー/ブレイディみかこ

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー

[書籍]ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー

[著者]ブレイディみかこ

[発行]新潮社(2019年7月5日)

3人家族の著者は、子供の教育について何の問題もなく小学校卒業を迎えた。中学校では「元底辺」と呼んでいる中学校へ進学する。様々な問題や差別・格差がある中で、親子の成長を描いた実話である。

筆者(日本人)の夫は白人(アイルランド人)なので、その間に生まれた子供は、見た目は東洋人だが気持ちは白人である。学校ではほとんどが白人だったが、その中で楽しそうに学校生活を送っていた。そんなある日、ノートの隅に落書きされていたのが「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」だった。子供は”ブルー”が表す感情を「怒り」と認識していたようだが、いずれにせよ、何か心境の変化があったと思う。人種差別的な何かがあったのか、友達とは違う自分に戸惑いがあるのかわからないが、ノートと共に机に鉛筆や消しゴムが散らかっていたことから推察すると「自分は何者なのだろう」と悩んだのだろう。日本では考えもしない悩みだが、逆の意味で日本では外国人を”違った目”で見ているのではないだろうか。

著者の子が外を歩いていると、知らない若者から「チンク」と言われたり、学校でもミュージカルの練習中に、主役の子が周りの友達に差別的発言をするなど、身の回りで様々な人種差別(レイシズム)が起こる。多くの移民を受け入れ多様な人種が生活する海外では、こういうことが”日常”なのだ。日本は島国で外国人が日常とは言えないが、グローバル社会においては日本でも同じ”日常”が訪れるだろう。その時に日本人は、今の意識のままでは狭いコミュニティでしか生活できなくなるのではないだろうか。

差別は人種だけではない。貧富の差による差別・偏見もある。海外(英国)ではフリー・ミール制度(低所得者の給食費無料制度)に代表されるように、低所得者への支援が充実している。日本では高所得者の学費免除の適用なしはあるが、低所得者への支援は少ない気がする。確かに低所得者支援はもろ刃の剣で、そういう家庭環境であることが周りに知られてしまう。日本ではそういう部分を隠したい・知られたくないという文化・風潮が強いのだと思う。本書では低所得者の子供が万引きを繰り返し、それに対し”万引きは犯罪”として、普通の生徒がいじめるのである。なんともやりきれない気持ちになる。

多様性は、うんざりするほど大変だし、めんどくさいけど、無知を減らすからいいことだと思う

現代は多様性が求められている。いろいろな考え方や人・文化(アイデンティティ)を受け入れ、生活していくことなのだろう。しかし、皆が多様性を持っていればよいが、一人ひとりの思いや考え、生活は異なる。実際には受け入れられないことも沢山ある。全てを受け入れることはできないが、筆者が言うように、そういった考えを持つ人がいるのだということを知ることが重要なのだろう。

自分とは違う立場の人々や、自分と違う意見を持つ人々の気持ちを想像してみることが大事。つまり「他人の靴を履いてみること」

「相手の立場に立って考えましょう」とはよく言われる言葉である。「他人の靴を履いてみる」は、それを的確に言い表した言葉だと思う。本書でもシンパシーとエンパシーについて述べられている。シンパシーは「相手の気持ちを理解すること」であり、エンパシーは「相手の気持ちを理解する”能力”」とある。シンパシーも大事だが、それだけでは単なる同情や哀れみに留まってしまう。それを理解した上で、いかに努力し行動できるかが大事なのだと思う。あなたは他人の靴を履けますか?

学校教育ではエンパシーを教えているが、随所に格差がみられるのも事実のようである。水泳大会では集まる場所や泳ぐ順番まで分けられ、富裕層と低所得者が交わることはない。裕福な子供はスイミングを習っており、一緒に泳いでも差がハッキリでるのも事実であるが、あからさまに貧富の差が見えてしまう。日本では平等に扱うのであろうが、そこは外国のたくましいところである。その状況を返って楽しんでいる(富裕層に勝つと盛り上がる)のがうかがえる。普段は差別し合っていても、共通の目標・目的があると、団結できるのだから、考え方ひとつなのだなと改めて感じるエピソードである。

人間は人をいじめることが好きなんじゃないと思う。・・・・罰することが好きなんだ

差別は「自分はあの人とは違う」という意識がベースにあり、「その人の弱い部分」だけを取り上げる偏見と「言いやすい相手」に攻撃することではないだろうか。わかりやすく言えば”いじめ”と同じである。多様性の世の中にあって、それを受け入れることは容易ではない。誰しも自分と違う”ひと”や”こと”には距離を置くだろう。自分に立場・環境・生活があるように相手にもある。それを認識したうえで、多様性と向き合っていくべきではないか。

本書は著者の子供の生活を中心に描かれているが、その成長ぶりが素晴らしい。11歳にして理路整然と大人顔負けの対応や考え方を持っている。環境がそうさせることも一つだが、筆者が子供としっかりと話し合い、お互いに考えることによって、成長につながっているのだろう。差別や格差をテーマにした著書であるが、教育・子育てとしても参考になるので、是非一読してほしい。


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