本のある生活~良書との出会い~: 「書評」マスカレード・ナイト/東野圭吾

2020年12月5日土曜日

「書評」マスカレード・ナイト/東野圭吾

マスカレード・ナイト

[書籍]マスカレード・ナイト

[著者]東野圭吾

[発行]集英社(2017年9月20日)

本作は、マスカレードシリーズの第3弾である。今回もホテル・コルテシア東京を舞台に、不可解な殺人事件が巻き起こる。これまでのシリーズはホテルの宿泊客の「仮面」を解き明かすストーリーであったが、今回はそれに加え、本当の”仮面”舞踏会(カウントダウン・パーティ)が舞台となる。

■あらすじ

あるマンションで若い女性の遺体があるとの匿名通報がある。そしてその犯人が、「ホテル・コルテシア東京のカウントダウン・パーティー(通称:マスカレード・ナイト)に現れるので逮捕してほしい」との密告があった。前回の実績を買われ、新田刑事はホテルマンになりすまし、潜入捜査を開始する。もう一人の主人公である、ホテル・コルテシア東京でコンシュルジュを務める山岸尚美は、宿泊客の男性からサプライズプロポーズのサポートを頼まれるが、その相手からはプロポーズを傷つけずに断ることを頼まれる。プロポーズは失敗したが、見事にその難題を解決することとなる。しかし、その男性から別の女性との食事のセッティングを依頼される。この”別の女性”は謎の多い人だった。一人で宿泊しているにも関わらず、偽名まで使って夫婦で宿泊しているように装っている。その”仮面”の下には何があるのだろうか。一方、警察には「犯人はカウントダウン・パーティーに仮装して現れる。どんな仮装かを教えるので、刑事たちを待機させて、絶対に逮捕してほしい」という新たな密告がもたらされる。そんな中、今回の犯行が連続殺人の恐れがあることがわかり、被害者の女性と関係のあった男性がホテルに宿泊していることを突き止める。その男性はある人物に脅されていた。犯人も密告者もわからないまま大晦日を迎え、カウントダウン・パーティーが始まった。パーティーでは皆、仮面を被り不審な行動をする者も多数現れるが、新田刑事は一連の不審な行動に疑問を持つ。お客様の要望に応えようと奔走する山岸尚美は、意図せず犯人の殺人計画に巻き込まれてしまう。複雑な人間関係や過去の事件が絡み合う中、犯人の計画は成功するのか、誰が犯人なのか・・・・


■感想

マスカレードシリーズは、ホテル・コルテシア東京の「山岸尚美」と刑事の「新田浩介」の2人の主人公が登場する。お互いに自分の仕事にプライドを持ち、責任感が強く頭も切れる人物である。ホテルマンはお客様の仮面の下を決して見てはならず、警察はその仮面を暴こうとする。それぞれの仕事は相反する部分が多く衝突することもあるが、お互いにその能力を認め合っていることが伝わってくる。事件という共通のテーマを通じて、それぞれの立場で知恵を出し合いながら事件解決に向かっていく様子に引き込まれてしまう作品である。

山岸尚美の行動は常にお客様視点であるが、過剰なまでの心遣いが印象的だ。例えば”プロポーズしたいから店を貸し切りにしたい”、”一目惚れしたから食事をセッティングしてほしい”、”ケーキのサンプルを(大晦日の)今夜までに作ってほしい”などを代替案を示しながら確実に答えていく。(実は試されていた?)現実的にはそこまでのサービスは難しいと思うのだが、そういった人物がいるホテルは是非、利用したいと感じた。

一方の新田浩介は、正義感が強く任務遂行のためには多少強引なことも必要と考えている。警察としては犯行を未然に防ぐ必要があるので当然であるが、ホテルへの潜入捜査を通じて、ホテルの仕事の特殊性・難しさを理解した上で捜査を遂行している。こういった部分もホテルへの、いや、山岸尚美へのリスペクトだと思う。

2人の主人公以外にも個性的な人物が登場する。一人はマスカレードシリーズには欠かせない「能勢刑事」だ。一歩引いた腰の低い印象であるが、その行動力・着眼点は誰もが認めるところであり、この人物がいなければ事件は解決できないといっても過言ではない。能勢刑事が調査した内容を警察内の係が違うにも関わらず、新田刑事と共有し事件を推理していく姿はまさにバディである。時にはその推理に山岸尚美も加わり、それぞれの考え方にお互いが刺激し合う。そういう仲間がいるのはとてもうらやましい限りである。

もう一人は、本作から登場したホテル・コルテシア東京の「氏原マネージャー」だ。”仕事に決して手を抜かず、ルールに厳格な人物”というだけあって、捜査協力よりもホテル業務やお客様を最優先する仕事ぶりには新田刑事もタジタジであるが、その洞察力から事件解決のヒントにもつながっている。ストーリーが進むにつれ、お互いを評価していることがわかる。自分の仕事にプライドを持って取り組む姿に共感しているのだろう。

本作は”仮面”が大きなテーマである。宿泊するお客様はもとより、ホテルマンに扮した刑事もまた、仮面を被っている。ホテル・コルテシア東京のスタッフはその仮面を絶妙なバランスでゆっくりと嫌悪感を持たれないように剥がしていく。というよりは、自ら仮面を外していくストーリーのように感じる。犯人は周到に計画を練り、警察の行動を手玉にとるが、その犯人の”仮面”こそがカギになる。複雑に絡み合うストーリーは最後までハラハラ・ドキドキである。欲を言えば、山岸尚美と新田浩介の今後の展開が気になるが、それは次回作(があれば)に期待したい。


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